雇用、利子および貨幣の一般理論 上 (1) (岩波文庫 白 145-1)

雇用、利子および貨幣の一般理論 上 (1) (岩波文庫 白 145-1)ケインズ難解だが、経済学を学ぶならば読んでおきたい
訳については比較できる立場にはないので、コメントは差し控える。

全体としては訳はわかりやすいと思うが、そもそもケインズの原著自体が難解であることで有名なので、読むのは骨であえる。

遊びがほとんどなく、理論の骨格がずしりと示されているので、本格的ではあるが、素人にとっては読むのは大変であった。

ただ、ケインズというと教科書程度しか知らないというのはもったいない。

ケインズといわれて、「失業対策に公共事業をして雇用を作れといっていた人ね」としか認識されないのではかわいそうだ。

今日では、ケインズというと公共事業で赤字垂れ流しという悪印象も強いかもしれないが、本書執筆当時は、失業率25%というまさに「危機の時代」だったのである。

多くの知識人が、大量の失業に失望し、社会主義・共産主義に傾倒してしまう中で、ケインズは資本主義を諦めなかった。

そして資本主義を復活させるべく書かれたのが本書なのだ。

一応本書のエッセンスだけを自分の言葉に直して記しておく。

有効需要の法則

(以下では、生産にかかる物的費用や機械の維持費はすべて共通なので抜いて考え、人的費用(労働)のみを対象とする)

総所得(個人の給料と会社の利益)は、総売上に等しく、総売上は、総購入費用に等しい。

所得の使い道は2つ、消費するか貯蓄するかである。

購入費用の出所は2つ、消費と投資である。

総所得が増えると、総消費も増えるが、総所得の増加分ほどには増えない(一部は貯蓄に回されるから)

よって、総所得ー総消費は、総所得が増えると大きくなる

さて、総所得ー総消費=総購入費用ー総消費=投資であり、投資は別の要因で決まる一定の値なので、総所得は、総所得ー総消費=投資となる分までしか大きくなれない。

つまり、政府の側が公共事業などで投資を増やさなければ、雇用量(総所得)も増えない。

利子は、我々が貨幣の有する流動性を手放すことの対価であって、貯蓄に対する報酬ではない。

すべての資産のうち自己利子率(現在のその資産の量と、一定期間後に、同じ価値を持つ量との変化割合)が最大のものと、すべての資産のうち限界効率(ある期間中に、そこからの収益・維持費・流動性などによって得る、あるいは失うと予測される割合)が最大のものとが一致したとき、これ以上投資は行われない。

そして、貨幣は、収益と維持費はほぼゼロで、需要が増大しても労働によって新たに作り出すことは出来ず、驚異的な流動性を持つため、自己利子率は全資産中で最大となる。

岩波文庫に拍手するとともに、強く強く推奨
塩野谷九十九氏の訳は未読だが、塩野谷祐一氏の訳は読了済み。一応塩野谷氏の授業も受けたこ

とがあるという資格でレビューをすると、本訳書は先行する塩野谷訳と比較してかなり読みやすいものに

なっている。ちなみに「読みやすい」というのは、ひらがなが多めにしてるとかっていうレベルではない。とにかく

読みすすむにつれおのずと思考を誘発させてくれる代物。しかも文庫なので値段やハンディさか言ってもこ

れは買い!!

先行訳の存在や、新たに蓄積された知的遺産の上に今回の新訳が出版されるわけなので、時系列か

ら考えても間宮訳のほうがブラッシュアップされてるのは当然でもあるし、そうでないと改めて訳す理由・メ

リットがない。

ちなみに、塩野谷氏の翻訳がダメな代物だと言うつもりも全くない。なぜなら、シュンペーターの翻訳本

で、東畑精一訳「経済分析の歴史」、東畑・中山伊知郎訳「経済学史」、塩野谷・東畑・中山訳「経

済発展の理論」を読み比べた場合、格段に「経済発展の理論」が読みやすくなっているわけで、訳者の

差分から考えると、読みやすさの所以は塩野谷氏の力量によると思われるからだ。

塩野谷訳はケインズ全集に収録される際に一般理論を翻訳したもので、間宮訳はケインズ全集が刊行

されて以後に翻訳されたものである。つまり間宮訳は、ケインズ全集が刊行されたことで出てきた新たな成

果(そこらへんは、例えば伊東光晴氏の「現代に生きるケインズ」やスキデルスキーの「ケインズ伝」とかを

読むのがよいかと)や、フリードマンをはじめとする反ケインズの流れを受けた上での、従来までのケインズ解

釈への批判と新たなケインズ像の模索といったことを踏まえて登場してきたわけなので、塩野谷訳とは、当

然のことながら時代的意義というか役割が違うだけのこと。あえて言うならば、村上春樹氏が改めて「グ

レート・ギャツビー」の新訳をいま出すのと同じことだと思っている。

つまり、「あれか、これか」といったことではなく、いま間宮訳を強く推奨する、ということである。

ケインズを超えたケインズの一般理論です
小生の学生時代には有斐閣から出ていた参考書で「一般理論」を読んだつもりでいました。原書を読んでもわからなかったからです。いまは手元にHarvest Book社の原書があります。とぼとぼ読み進めていますが、難解です。間宮氏の本書は「一字一句に至るまで」「逐語訳」を極めたと自身がおしゃるように、実に周到な的確な訳です。小生の英文解釈の教材としては、最高の出来栄えです。最近の社会科学書の翻訳はどれも時流ものばかりで、訳に間違いも多く、勉強が浅いと感じられるからです。そういう浅薄な時代の中で、本書には訳注が300あまりもある。すでに一つの研究書です。しかもその注の内容がすごい。たとえば「消費財」と原文にあるところを「消費財もしくは資本装備」とすべきだろう、とまで読み込んでいる。ここまでくると、ケインズを越えて、本来あるべきケインズの一般理論、という域に達しています。ちょうど赤塚忠氏の「荘子」の注釈本を思い出します。

また、その注釈を合わせて読むだけでも、経済学史を修めることもできそうです。ハロッド、ロビンソンなどがケインズとどういう点で結びついていたのかを詳細に知ることができます。

大学生諸氏、間に合わせの勉強も必要でしょうが、学生時代にひとつ、原書を講読したといえるためにも本書を徹底的に精読されてはいかがでしょうか。
雇用、利子および貨幣の一般理論 上 (1) (岩波文庫 白 145-1)

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